建設業法が定める「軽微な工事」の基準
建設業を営むうえで、まず知っておきたいのが「軽微な建設工事」という考え方です。建設業法では、工事の内容によって許可が不要となる金額の基準が定められており、建築一式工事以外の工事では1件の請負代金が500万円未満(税込)であれば許可なく営業できます。一方、建築一式工事については基準が異なり、1,500万円未満の工事、または延べ面積が150平方メートルに満たない木造住宅の工事であれば、こちらも許可は不要です。
この500万円という数字が独り歩きしがちですが、実際には工事の種類によって基準となる金額そのものが変わってくる点に注意が必要です。
※参考:建設業の許可とは(国土交通省)、建設業許可事務ガイドラインについて
建築一式工事とそれ以外の専門工事の違い
建築一式工事とは、総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事を指します。これは単に建物を作る作業そのものを指す言葉ではなく、工程管理や安全管理、品質管理、下請業者間の調整といった、元請業者が現場全体をまとめる役割を担う工事という意味合いが強い点が特徴です。新築工事や大規模な増改築工事など、複数の専門工事を組み合わせて建物を完成させるような場合が典型例になります。これに対して、内装工事や電気工事、塗装工事といった27業種にわたる専門工事は、特定の工種に特化した工事を指します。建築一式工事と専門工事は上下関係にあるわけではなく、それぞれ独立した業種区分として扱われる点も理解しておく必要があります。
ここで注意したいのは、複数の専門工事を組み合わせて一つの建物を仕上げたとしても、それだけで建築一式工事とみなされるわけではないということです。個別の専門工事として施工が可能な工事は、原則として一式工事には該当しません。マンションの一室のリフォームのように、内装や設備の専門工事の組み合わせで完結する工事は、あくまで専門工事として扱われます。
「木造住宅150平方メートル未満」の判断基準
建築一式工事における軽微な工事の基準には、金額だけでなく規模による基準も存在します。延べ面積が150平方メートルに満たない木造住宅の工事であれば、金額が1,500万円を超えていても許可不要となる場合がある点は見落とされやすいポイントです。ここでの「木造」とは、建築基準法上の考え方に基づき、建物の主要構造部が木造であることを指します。柱や梁、壁などの構造の中心部分が木材で構成されている住宅が対象になるということです。また「住宅」という言葉についても、居住のために使われる部分が建物全体の延べ面積の半分以上を占めていることが前提となっており、店舗や事務所との併用建物であっても居住部分の割合次第で住宅として扱われるかどうかが変わってきます。
新築工事であれば延べ面積の算定は比較的分かりやすいものの、増築や改築を行う場合は、増築後の延べ面積で判断するのか、既存部分も含めた建物全体で判断するのかという点で迷いが生じやすくなります。こうした境界線に近いケースでは、自己判断で許可の要否を決めてしまうと後になって思わぬ違反状態に陥ることもあるため、慎重な確認が欠かせません。
工事費500万円に含まれるもの・含まれないもの
500万円という基準は、単純に契約書に書かれた金額だけで判断できるわけではありません。消費税や材料費の扱いを誤ると、実際には許可が必要な工事を無許可のまま請け負ってしまうことにもつながります。消費税は含まれる?
500万円の基準を判断する際は、消費税を含めた税込金額で見るというのが原則です。工事の請負金額を税抜で考えてしまうと、実際には許可が必要な工事であるにもかかわらず、許可不要と誤解してしまうおそれがあります。たとえば、契約金額が税抜490万円だった場合、消費税を加えると税込539万円となり、500万円のラインを超えてしまいます。この場合、税抜表記だけを見て「500万円未満だから許可は不要」と判断してしまうと、実質的には無許可で軽微な工事の基準を超える工事を請け負ってしまうことになります。
見積書や契約書を税抜表記で作成している事業者は少なくありませんが、この表記のまま金額感覚を持ってしまうと、税込にした際に基準を超えていることに気づかないまま契約を結んでしまうケースが起こりえます。契約前には必ず税込金額に換算して確認する習慣をつけておくことが大切です。
材料費・運送費は含まれる?
工事費500万円の判断には、契約書に記載された請負金額だけでなく、材料費や運送費も含めて考える必要があります。特に注意したいのは、発注者が資材を用意する、いわゆる発注者支給材料(無償支給材)を使う工事です。この場合、施工業者が材料費を直接請求していなくても、支給された材料の市場価格を請負金額に加算して判断することになっています。また、資材を現場まで運ぶための運送費についても、請負金額に含めて考える必要がある点は見落とされがちです。運送費を別会計にしているからといって500万円の基準から除外されるわけではありません。
具体例で見ると、施工業者が受け取る契約金額が450万円であっても、発注者から支給される材料が100万円相当であれば、実質的な工事費は550万円となり、500万円の基準を超えることになります。契約金額だけを見て許可の要否を判断してしまうと、こうした支給材料の存在を見落とし、無許可で基準超えの工事を請け負ってしまう危険があります。
建設業許可の基準となる工事費の具体例
これまで見てきた消費税や材料費の考え方を踏まえると、同じ「契約金額500万円未満」という表記であっても、実際に許可が必要かどうかは案件ごとに異なってくることが分かります。たとえば、契約金額が税抜480万円で、支給材料もなく、消費税を加えても税込528万円に収まらないような工事は、税込・材料費を含めてもなお500万円未満に収まるのであれば軽微な工事として扱われます。一方で、契約金額が税抜490万円と表記されていても、消費税を加えて税込539万円になる工事や、契約金額450万円に加えて支給材料100万円相当が加わり実質550万円となる工事は、いずれも500万円の基準を超えるため許可が必要になります。
このように、税抜表記の金額だけを見ていると判断を誤りやすいため、下記のような形で整理しておくと分かりやすくなります。
| 契約金額(税抜) | 消費税 | 材料費 | 合計(税込・材料費込み) | 許可の要否 |
|---|---|---|---|---|
| 480万円 | 48万円 | なし | 528万円 | 要(500万円超) |
| 450万円 | 45万円 | 支給材料100万円相当 | 595万円 | 要(500万円超) |
| 440万円 | 44万円 | なし | 484万円 | 不要(500万円未満) |
契約・請求書を分割すれば500万円未満(建設業許可不要の基準)にできる?
500万円という基準を目にすると、契約を複数に分けて請求すれば許可を取らずに済ませられるのではないかと考える方も少なくありません。しかし、こうした分割には建設業法上明確な制限が設けられています。分割契約が違法とされる理由(施行令第1条の2)
建設業法施行令第1条の2では、実質的に一つの工事であるにもかかわらず契約を複数に分けている場合、それぞれの契約金額を合算して500万円の基準を判断することが定められています。つまり、契約書の見た目を分けただけでは、法律上の判断からは逃れられない仕組みになっているということです。この一体性の判断は、工事の準備段階から施工の時期、場所的な関連性といった実態面から行われます。同じ現場で連続して行われる工事であったり、当初から一つの工事として計画されていたことがうかがえるような場合は、契約書が複数枚に分かれていても一つの工事として扱われます。
このような合算のルールがあるにもかかわらず、意図的に契約を分割して500万円未満に見せかける行為は、脱法目的の分割として建設業法違反にあたります。契約書の枚数を増やすことは、法律上の基準を回避する手段にはならないという点をまず押さえておく必要があります。
「正当な理由」がある分割の具体例
一方で、契約が複数に分かれていること自体が直ちに違法になるわけではありません。工種が明確に異なる工事や、工期・工区がそれぞれ独立している工事であれば、別々の契約として扱われることに合理性があります。また、発注者が異なる場合や、そもそも工事の目的自体が別のものである場合も、それぞれ独立した契約として問題なく処理できます。同じ現場であっても、契約時期や施工時期が明らかに離れているような工事についても、後から追加で発生した別の工事として扱われることが一般的です。
このように、業務の実態として本当に別個の工事であるかどうかが、正当な分割と脱法的な分割を分ける境目になります。
やってはいけない請求書分割のパターン
実際に問題視されやすいのが、本来一つの工事であるものを見かけ上分けているケースです。たとえば、基礎工事と上物工事を別々の契約にして、それぞれの契約金額を500万円未満に収めるような分け方は、実態としては一つの建物を完成させる工事である以上、合算して判断されることになります。同様に、一つの建物の1階と2階の内装工事を別契約にする、あるいは材料費だけを別契約や別請求にして請負金額を低く見せかけるといった手法も、実質的には一体の工事を分割しているにすぎません。こうした請求書の分け方は、契約書の形式こそ整っていても、施工の実態から一つの工事とみなされ、結果として無許可営業と判断されるリスクを伴います。
契約を分ける際には、金額を基準額未満に抑えることを目的とするのではなく、工事の実態として本当に別個のものであるかどうかを起点に判断することが欠かせません。
無許可で500万円以上の建設工事を請け負った場合のリスク
500万円以上の工事を許可なく請け負ってしまうと、その場の取引が完了しても後々まで影響が残るさまざまなリスクを抱えることになります。ここでは代表的な三つの側面から確認していきます。建設業法違反に問われる
建設業許可を得ずに軽微な工事の基準を超える工事を請け負うと、建設業法違反として罰則の対象になります。個人事業主であっても法人であっても、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があり、法人の場合は両罰規定により事業主だけでなく法人自体も処罰の対象となります。また、罰則の対象になるのは事業主本人だけに限りません。違反行為を実際に担当した従業員についても、罰則が科される場合があります。
さらに、発注者や元請業者が下請業者の無許可状態を知りながら工事を発注していた場合には、発注者側にも監督処分などのリスクが及ぶことがあります。無許可営業は請け負った側だけの問題では済まず、取引relationship全体に影響を与えかねない点を理解しておく必要があります。
建設業許可を申請する際、欠格事由に該当する
無許可営業によって罰金以上の刑に処せられると、その刑の執行が終わった日から5年間は建設業許可の申請ができなくなります。これは建設業法における欠格要件の一つで、一度違反が確定してしまうと簡単には取り消せない重い制約です。この5年間は、500万円以上の工事を一切請け負うことができなくなるため、事業の受注可能な範囲が大きく制限されてしまいます。受注額が大きい工事を中心に手掛けている事業者にとっては、事業継続そのものに関わる問題になりかねません。
加えて、建設業法違反という事実は、取引先や発注者に知られた場合の信用面にも影響を及ぼします。罰則そのものだけでなく、こうした対外的な信用の低下という無形の損失も見過ごせないリスクです。
無許可期間の工事実績は許可申請に使えない
無許可の状態で行っていた工事の実績は、後から許可を取得しようとする際に、経営業務の管理責任者や専任技術者としての実務経験としてカウントされないという落とし穴があります。これらの要件は、建設業に関する経験年数を審査の基準としているため、無許可期間の実績は原則として証明資料として使えません。その結果、将来的に許可を取りたいと考えたときに、実務経験の年数に空白期間が生じてしまい、想定していたよりも許可取得のタイミングが遅れてしまうことがあります。
このような事情を踏まえると、受注額が500万円に近づいてきた段階で早めに許可取得の準備を進めておくことが、事業を止めずに成長させていくうえで欠かせない判断になります。
工事費500万円未満でも守るべき建設業法のルール
500万円未満の工事は許可が不要になるとはいえ、それは建設業法上の義務が一切なくなるという意味ではありません。軽微な工事であっても、事業者として守るべきルールがいくつか存在します。主任技術者の配置義務
軽微な工事であっても、施工にあたる際には主任技術者を配置しなければなりません。許可の有無にかかわらず、工事の技術的な管理を担う責任者を置くことは建設業法上の義務であり、500万円未満だからといって免除されるわけではありません。主任技術者になるためには、一定の実務経験を積んでいることや、施工管理に関する国家資格を保有していることなど、業種ごとに定められた資格要件を満たす必要があります。事業者としては、こうした要件を満たす人材を社内に確保しておくことが前提になります。
契約書の作成義務(口約束はNG)
建設業法第19条では、工事を請け負う際には契約内容を書面化することが義務付けられています。軽微な工事であっても、口約束だけで契約を済ませることは認められていません。契約書には、工期や請負金額、支払方法といった基本的な項目を明記する必要があります。金額が小さい工事ほど口頭でのやり取りで済ませてしまいがちですが、後々のトラブルを避けるためにも、金額の大小にかかわらず契約内容を文書として残しておくことが求められます。
また、建設業法では契約書を作成するだけでなく、見積条件の提示、見積期間の確保、適正な工期の設定、不当に低い請負代金の禁止、下請代金の支払いなどについても細かなルールが定められています。
これらのルールは、建設業許可が必要な大規模工事だけに関係するものではありません。元請負人と下請負人、発注者と受注者の間で適正な取引を行うために確認しておきたい内容です。最新版の改訂点や実務上の注意事項については、【2026年版】建設業法令遵守ガイドラインの基本と最新の改訂内容で詳しく解説しています。専門工事業法に基づく別途登録が必要なケース
建設業許可とは別に、特定の業種については個別の法律に基づく登録が必要になる場合があります。解体工事業や電気工事業、浄化槽工事業などがその代表例で、これらは建設業法とは異なる専門工事業法の枠組みで登録制度が設けられています。このため、工事費が500万円未満で建設業許可が不要な場合であっても、業種によっては別途登録を済ませておかなければ営業できないことがあります。たとえば解体工事を行う事業者は解体工事業の登録、電気工事を行う事業者は電気工事業の登録が必要になるケースがあり、建設業許可の有無だけを確認して安心してしまうと、こうした別制度への対応漏れが生じる可能性があります。
工事費500万円を超える見込みが出てきたら?建設業許可を取得するには
受注する工事の規模が大きくなり、500万円を超える見込みが出てきた段階で、事業者としては建設業許可の取得を具体的に検討する必要が出てきます。ここでは取得要件から手続きの流れ、依頼先の選び方までを順に確認していきます。将来的に公共工事の受注を目指す場合は、建設業許可の取得に加えて、経営事項審査を受ける準備も必要です。2026年7月に施行された経営事項審査の変更点については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2026年7月改正】経営事項審査の改正で何が変わる?P点への影響と対応策を解説建設業許可の取得要件
建設業許可を取得するには、いくつかの要件を満たしていることが求められます。まず、経営業務の管理責任者、いわゆる経管を設置していることが必要です。これは、建設業の経営について一定の経験を持つ人材を経営陣に置くことを求めるものです。
次に、専任技術者を各営業所に配置していることも欠かせません。専任技術者は、取得したい業種に関する実務経験や資格を持つ技術者で、営業所ごとに専任で置くことが求められます。
なお、経営業務の管理責任者や営業所技術者等については、必要な経験や資格を満たしているだけでなく、申請する事業者に常勤していることを資料で証明する必要があります。
これまで常勤性の確認には健康保険証の写しが広く使われてきましたが、健康保険証の廃止に伴い、2026年7月以降は必要書類の取り扱いが変わっています。法人・個人事業主ごとの新しい確認資料については、建設業許可の常勤性確認資料が変わる!マイナンバーカード不要化と新しい必要書類を行政書士が解説で詳しく解説しています。建設業では、許可要件を満たす技術者の確保だけでなく、技能者が働き続けやすい環境を整えることも重要です。人材確保の取り組みを対外的に示し、経営事項審査の加点にもつながる「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」については、こちらの記事をご覧ください。
建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度とは?経審加点と宣言手順を徹底解説さらに、資本金や自己資本といった財産的基礎の要件も審査の対象になります。これは、工事を安定して遂行できる経営基盤があるかどうかを見るためのものです。加えて、事業者本人や役員が過去に法令違反などによる欠格要件に該当していないこと、業務を誠実に行うと認められることも取得の前提となります。
大臣許可・知事許可、一般建設業・特定建設業の区分
建設業許可には、営業所の設置状況に応じた区分があります。営業所が一つの都道府県内にのみある場合は知事許可、二つ以上の都道府県に営業所を設けている場合は国土交通大臣の許可、いわゆる大臣許可が必要になります。この区分は営業活動を行う地域の広さではなく、営業所そのものの所在地の数によって決まる点に注意が必要です。もう一つの区分として、一般建設業と特定建設業があります。これは、発注者から直接請け負う工事について、下請契約の金額が5,000万円(建築工事業の場合は8,000万円)以上になるかどうかで分かれます。この金額を超える下請契約を締結する場合は特定建設業の許可が必要になり、それ以下であれば一般建設業の許可で足りることになります。
申請から許可取得までの期間・スケジュール
建設業許可の申請から実際に許可が下りるまでには、一定の審査期間がかかります。知事許可であれば1か月前後、大臣許可であれば3か月前後が標準的な目安とされていますが、書類の準備状況や自治体によって前後することがあります。また、許可には有効期間があり、取得後5年ごとに更新申請を行う必要があります。更新の申請は有効期間が切れる前に行わなければならず、期限を過ぎてしまうと許可が失効し、再度新規で許可を取り直すことになってしまいます。受注のタイミングに影響が出ないよう、更新のスケジュールは早めに把握しておくことが望まれます。
まとめ
建築業許可が不要とされる「軽微な工事」の基準は、契約金額の表記だけで判断できるものではありません。消費税や材料費を含めた実質的な工事費で見る必要があります。また、契約を分割して基準を回避しようとする行為は、工事の実態に基づいて合算判断される仕組みになっており、意図的な分割は建設業法違反につながることも押さえておきたい点です。無許可のまま基準を超える工事を請け負ってしまうと、罰則だけでなく、その後5年間許可が取得できなくなるといった事業への影響も生じます。受注額が500万円に近づいてきた段階であれば、早めに許可取得の準備を進めておくことが、事業を止めずに成長させていくための現実的な選択になります。
自社での申請には要件確認や書類収集の負担が伴うため、判断に迷う点や手続きの進め方に不安がある場合は、建設業許可を専門に扱う行政書士に相談するのも一つの方法です。「申請Navi」では、建設業許可の実績を持つ行政書士を地域や分野から検索できます。
建設業許可をはじめとする官公署への申請書類については、誰に作成や提出を依頼できるのかを正しく確認することも重要です。行政手続きを外部へ委託する際の注意点については、こちらの記事で詳しく解説しています。
行政書士法改正の企業への影響とは?外注・代行体制の見直しポイントを解説